夫婦生活に失敗する難病患者
「答えは出さなくてもいい」
やれば出来る――
そう信じて生きてきた私に、人生最大の誤解が待っていました。
まるで“運命の人”のように自然な流れで結ばれた妻との日々。
穏やかで幸せな結婚生活が始まり、仕事も順調。
ポジティブ思考一色だった私は、
「どんなことでも、やれば出来る」と思い込んでいました。
ですが、
ほんのささいなすれ違いが、ある日突然、崩れ始めます。
すれ違いは、ほんのひと言から
洗濯物の片づけ方をめぐって起きた、ある日の出来事。
私:「洗濯物が山積みだよ」
妻:「そうだね」
私:「じゃあ、たたんでおくね」
何気ないやりとりのつもりでした。
ところが、数時間後――
妻:「あれ、たたんだ洗濯物、置きっぱなしだけど……」
なんとなく妻の気配が変わったのを感じました。
その理由が分からず、私は戸惑い、繰り返し問いかけました。
私:「あれ、どうしたの?」
妻:「・・・」
私:「何か悪いことしたっけ?」
妻:「・・・」
でも、返ってくるのは沈黙だけ……。
その後も、しばらく妻から返事をもらえず、私は困惑していました。
私:「何か思うことがあるなら、言ってくれないと分からない」
と何とか答えを引き出そうと何度も声をかけました。
ようやく妻が口を開いたとき、ようやくその理由が分かりました。
「たたんだ洗濯物は、そのまま片づけてくれていると思っていたのに」
――そう、ただそれだけのことだったのです。
正論が、心をすれ違わせる
私は、解決策を出せばいいと思っていました。
仕事で問題解決の経験をいくつも重ねていた私は、この手の解決には自信がありました。
問題が起きれば、「じゃあルールを決めよう」と。
でも、それは妻が求めていたことではなかったのです。
ただ、「ああ、モヤっとしたんだよね」と
一緒に気持ちに寄り添ってくれるだけでよかった。
「問題は、解決しなくてもいい」
この出来事は、私にとってまさに人生の転換点になりました。
病気のとらえ方が変わった瞬間
私は、価値観の不一致なら、
二人が合う形を模索すればよいと考えていました。
そんな私の考え方を妻に精一杯伝えました。
深夜1時を過ぎるまで、私たちは話し合いました。
でも、最終的に分かったのは、
妻はただ嫌な気分になったのを共感して欲しかっただけ。
私は目からうろこが落ちました。
何も問題解決していないはずなのに、何もかも解決してしまいました。
起こる問題は、必ずしも解決する必要はなかったのです。
妻との経験から、私は“闘病”の向き合い方も見つめ直しました。
症状を消そうとばかりしていた日々。
でも、本当は――
「何が心や身体に引っかかっていたのか」
そこに耳を澄ませることの大切さを知ったのです。

日常のなかに、答えはある
私が提供しているサポートでは、
病気の“始まり”の部分から見直していきます。
「こんなことで本当に変わるの?」と思われるような、
日常の小さなことの積み重ね。
それでも、確かに変化が起こります。
難しい理屈や努力ではなく、
自分の価値観や特性に合わせた“シンプルな方法”。
それが「愉しんぷる」の核です。
難病とともに生きる方が「病気ではなく“人生”」を軸に、自分らしく整っていくこと。
それは、その人だけの「健康の型」を築くということでもあります。
妻との関係性が変わり、心がやわらかくなった私。
でも、人生の物語は、まだまだ続きます。
人生山あれば谷あり、
闘病の道は――まだ、終わりません。
――― EPISODE.9へつづく ―――